第二次世界大戦のドイツと言えばナチ党のヒットラーですね。ヒットラーと言えばユダヤ人大虐殺を企て実行した極悪人というイメージがあるかと思います。国の命令に従い虐殺を行っていったドイツ兵たち。今の平和な日本にいると、戦争という異常性をリアルに想像することは難しく、なぜ人間がここまで残酷になれるのだろうかとこの映画を見て考えさせられました。
作中では善良なユダヤ人にたいして極悪非道なドイツ人の生々しい暴力的描写が多く登場します。そんな中ドイツ兵の指揮官でありながらユダヤ人を助ける男が現れます。この映画は主人公のピアニスト(ウワディスワス・シュピルマン)が実際に体験し記した著書「ある都市の死」を元に作られました。
2002年公開 ロマンポランスキー監督 カンヌ映画祭で金賞(パルムドール)受賞
1939年、多くの人々が行き交うワルシャワの街の実際の映像からこの映画は始まります。
地域のラジオ局でピアノを演奏する主人公ウワディスワス・シュピルマン(以下シュピルマン)。その姿は気品と自信にあふれています。
戦争は人間を追い詰め人間としての尊厳を根こそぎ奪っていきます。
シュピルマンの父(これまた紳士的で威厳を漂わせています。一流企業の会長さんか由緒ある茶道の家元のような風貌)は町を歩いている時に若いドイツ兵に呼び止められ、なぜ頭を下げないのかと詰問されます。
風格ある老紳士の父がプライドを殺して小さな声で若いドイツ兵に謝罪します。その直後にドイツ兵により思いっきり殴られます。
若者が高齢者を平気で殴る。ここに戦争の異常性を感じます。まれに日本でも介護施設で高齢者を虐待する職員のニュースが全国ネットのニュースで流れます。人間なら当然のこととしてやってはいけないこと。というか少しでも良心があればできないこと。そういう共通認識があるからこそ虐待のニュースは大体的に取り上げられるのだと思います。戦争の恐ろしさは人間の良心を破壊し狂気に変えてしまうところ。
当たり前のように高齢者を殴ってしまう人間が日常生活の中に何万人といる社会を想像すると恐ろしいし、もしかするとこれを書いている私自身が殴ってしまう人間になってしまうかもしれないことを考えるとさらにおそろしい。
支配する人間の狂気と支配される側の弱さ、そして分断された2者の対立構造が荒廃する都市の中で悲劇的に描かれていきます。
本作最大の見どころは「ピアノの旋律」
冬の夜に月あかりが優しく差し込む廃墟の部屋でシュピルマンはショパンのバラードを演奏します。もうこのシーンは「美しい」の一言。ドイツ兵とユダヤ人がピアノを挟み向かいあい生ずる緊張感もこの演奏のまえでは、美しさに変化します。この時だけは戦争が姿を消し世界が静寂に包まれます。冷徹なドイツ兵の表情が和らぎほのかに笑みが見られます。
この映画には刺激的な音楽や過度な脚色がありません。大きな感動やハラハラドキドキといったスリルもありません。時折流れるクラシック音楽を背景に淡々と物語が進んで行きます。映画そのものが一つのクラシック音楽のように流れて行きます。戦争の醜さと月の光の下で流れる美しい旋律。この絶妙なコントラストが実に見事である。この映画の魅力はこれに尽きると思います。
歴史に残る名作です。
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